いつも真ん中を探している 音楽家・宮内優里インタビュー 前編

miyauchiyuri

これまでに6枚のアルバムをリリース、国内外問わず様々なアーティストとのコラボレーション、音楽やテレビ、CMへの楽曲提供など活躍の場を広げている音楽家・宮内優里さん。生楽器の演奏とプログラミングが重なり合うその有機的な音楽がジャンルを超えて高く評価されている気鋭のミュージシャンだ。エレクトロニカ、アンビエントといわれるジャンルに属する宮内優里さんの音楽。一見都会的な印象が強いが、実は現在その楽曲制作のほとんどを八街の自宅で行っている。

八街でのライブ「INTRO」や、八街市立図書館での「ライブラリーカフェ」、YACHIMATAというタイトルの楽曲配信など、地元での活動にも注力している宮内優里さんに、8+がインタビュー。第一線で活躍するミュージシャンがなぜ八街をベースにしているのか、八街への想いとは?


都会にいると当たり前で、ないと不便って思っていたもの
実は、なくても全然困らなかったんです

そもそもなぜ八街に?

八街に来る前は千葉市に住んでいて、これといって縁はなかったんですけど、妻の職場が八街だった、家で音楽活動をするのに一軒家のほうが都合が良かったという理由くらいで、なんとなく来ました(笑)。2009年6月頃から八街に住んでいます。八街の方には失礼な話になりますけど、音楽活動自体は東京にいた方が仕事の幅は広がるので、ゆくゆくは都市部に移していこうと当初は思っていました。

でも、1,2年八街に住んだら色々と不便に感じなくなっちゃって。都会にいると当たり前で、ないと不便って感じるようなところがいつの間にか解消されちゃって。

どうやって解消したんですか?

自分で解消したというよりは、慣れたというだけだと思いますが、30分に1本しか電車がなかったとしてもその時間に行けば乗れるわけじゃないですか。一本遅れると大変なので遅刻もしなくなったし、コンビニも家に必要なものは家にちょっと多めに買っておけば良いだけで、近くになくても困らない。車さえあればほとんど不便は感じなくなりました。

逆に都市部にいると、付き合いや細々とした用事も増えるので。意外と八街にいる方が時間ができるというか。出費もおそらくだいぶ減っているのではと思います。

野心とかじゃなくって
自分が創りたい音楽をつくることが大事だなって

八街にいることが実際の音楽づくりに影響を与えているところは?

わかりやすいところで言うと、作りたい音楽がゆっくりで、静かなものになりました。心にゆとりが出たのかも。

お金の使い方ひとつとっても、都市部の人たちってお金の使い方が全然違いますね。そのぶん稼いでいるとは思うんですけど。八街で生活していると、お金もあんまり使わないので、その分お金を稼がなきゃいけないっていう、プレッシャーから逃れられたのは大きいです。

その分、のし上がってやる!的な野心みたいなモノとか、戦う、という気持ちがもうすっかりなくなってしまいましたけど(笑)。

八街にいると、音楽業界で成り上がっていくことと音楽を作るっていうことって、違っていいんじゃない?っていう気持ちが強くなって来て。自分が作りたい音楽を自分のペースで作るのが大事だな、と思うようになってきた気がします。

宮内さんが自宅近くの田んぼの雰囲気を表現しているという楽曲シリーズ「YACHIMATA」をはじめたきっかけは?

YACHIMATAを始める前も、楽曲配信とか八街の自宅から制作現場の生中継とかインターネットでの活動っていうのは色々やっていたんですけど、それはさっき言った野心みたいなところにつながっていたところがあって。単純に自分を知ってもらいたいのと、発信をしていかなきゃ忘れられちゃうみたいな焦りとか、半ば修行のようにやっていました。

そのうちそういうことで忙しくなっちゃって、仕事や演奏の機会も増えて来たのもありましたけど、何のための音楽をやっているのかな、とか考えちゃうほど、疲れちゃって。

だから原点に立ち帰ってじっくり創ろうということころから、一旦配信の類をやめた時期があって。それで2015年11月に出した「宮内優里」っていうアルバムが出来て。野心とかから離れて、自然体で作品を作ることができました。

それでこの作品を作るときに配信を一年ぐらいやめていたら、アルバムを出した翌年、仕事が全然来なくなって(笑)。本当に忘れられちゃったかもしれないと思いましたね。

だから(YACHIMATAを始めた)2016年の頭くらいって、時間がすごくあったんですよね。いままで時間がないない言っていたのが、うわっすごい時間あるな、と。

初めて作ったときもそんなに大袈裟な理由はなくて。配信するつもりもなく近所の田んぼを散歩しながら音を録ってみたんですよ。砂利道をザクザク歩いている音とか。
そんなザクザクっていう音を聞きながら気負いせずに曲をつくってみたら案外楽しくて、そのままアップしちゃった。それがなんとも楽しかったので、自分のためにゆるーくやろうと思って配信を再開したんですよね。

告知もせずに勝手なタイミングで、天気のいい日とか、雪降った日とか、なんか今日やりたいなって思った日に作っているのがYACHIMATAです。

YACHIMATAに関しては作業を開始したら1、2時間くらいで完成させるっていうのはルールとして決めていて。日をまたぐとキリがないので。クオリティとか深く考えずになんとなくパッと作る。ほんとに日記みたいな感じです。無料配信なのでその分自由にやっていて、実験的なことも試しています。

それがここ最近反響が出て来て。今現在、YACHIMATAシリーズで40数曲アップしているんですけど、再生される回数がぐっと増えて来たり、最近、仕事の依頼もYACHIMATAのこの曲を使いたいとか、そういう曲を作って欲しいとかいう依頼もあったりして、実際に仕事にもつながっていたりもします。なんでもやってみるもんですね。とりあえず当面はのんびり続けていこうと思います。(後編につづく)



今回のインタビューは、宮内さんのご自宅で。日当たりのいい作業スペースはシンプルで居心地がいい。PCの片隅には、遠方のLIVEで偶然出会ったという落花生の小物が。


PCスペースの脇には、ギターやキーボードなどが並ぶ。傍らには小さなマイク。八街の住宅街の一角にある静かな部屋で、様々な音が織り交ぜる宮内さんの音楽が、日々生まれている。

宮内優里さんの最新情報は公式HPから
http://www.miyauchiyuri.com/

YACHIMATA他の楽曲はサウンドクラウドから聴ける
https://soundcloud.com/miyauchiyuri





宮内 優里 | MIYAUCHI YURI
作曲家/音楽家。1983年生まれ。千葉県八街市在住。これまでに6枚のアルバムをRallye Labelよりリリース。生楽器の演奏とプログラミングを織り交ぜた、有機的な電子音楽の制作を得意とする。アルバムではこれまでに、高橋幸宏、原田知世、小山田圭吾、星野源、It’s a Musical、GUTHERなど、国内外問わず様々なアーティストとのコラボレーション作品を収録。ライブでは様々な楽器の音をたった一人でその場で多重録音していく”音の実験室”ともいうべき空間を表現する。FUJI ROCK FESTIVAL、WORLD HAPPINESSなど、各種大型フェスなどにも出演。自身の活動以外では、映画「リトル・フォレスト」(監督:森淳一/主演:橋本愛)などの映画音楽をはじめ、NHK・Eテレなどのテレビ番組、舞台・ドラマ・CMでの音楽制作・楽曲提供や、国内外のアーティストのプロデュース、リミックスなど、活動の幅を広げている。2016年11月、sphontikと背景のための音楽研究室「BGM LAB.」を開室。
http://www.miyauchiyuri.com/
http://www.bgmlab.com/

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